欧州統一特許裁判所協定(UPCA)に関するご案内 | 協和特許法律事務所

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欧州統一特許裁判所協定(UPCA)に関するご案内

カテゴリ: IPニュース 公開日:2022年06月08日(水)

※欧州統一特許裁判所協定(UPCA)に関するご案内【2023年6月改訂】が最新情報です。
https://www.kyowapatent.co.jp/ipinfo/news/2023-6

 

統一特許裁判所協定(UPCA:Unified Patent Court Agreement)が2022年秋から2023年初め頃に発効すると言われています(ドイツが批准書を寄託してから4か月後に発効予定)。以下、UPCAの発効によってスタートする単一特許制度及び統一特許裁判所についてご案内いたします。

1.単一効特許について

a.単一効特許(UP:Unitary Patent)

単一効特許は、EU(スペイン、クロアチア、ポーランド除く)内で効力を有し、UPCA批准国(以下、批准国)において一括して有効な特許権です。単一効特許は、批准国全体において単一の特許権として効力を有します。また、単一効特許は、登録時における批准国(現在17か国)のみにおいて有効であり、登録時に批准していない国では有効ではありません。
(UPCA批准国(現在17か国)とは、オーストリア、ベルギー、ブルガリア、デンマーク、エストニア、フィンランド、フランス、ドイツ*、イタリア、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルク、マルタ、オランダ、ポルトガル、スロベニア、スウェーデン)
*ドイツは、近々批准書の寄託予定。尚、イギリスはEUを離脱しており、単一効特許の効力は及びません。

            

b.統一特許裁判所(UPC:Unified Patent Court)

単一効特許に関する侵害訴訟や特許取消訴訟等は、統一特許裁判所の管轄となります。統一特許裁判所の判決は、単一効特許について全批准国に効力を及ぼします。従って、単一効特許の特許権が取り消されると、全批准国において特許権が無くなります(セントラルアタック)。単一効特許は、全批准国に対して一括で取得し、一括で取り下げることはできますが、一部の批准国のみに対して取得したり、取り下げることはできません。

 

c.単一効特許の選択

出願から許可通知[EPC Rule 71(3)]までの手続きは、従来の欧州特許と同じです。許可通知[EPC Rule 71(3)]の発行後、単一効特許と従来の欧州特許の何れか一方を選択することができます。UPCA批准国以外の非批准国については、単一効特許は利用できませんが、従来の欧州特許のように国ごとの有効化が可能です。単一効特許を選択する場合には、特許公報の公開(登録日)後1か月以内(延期不可)に単一効特許の申請を欧州特許庁(EPO)へ行う必要があります。単一効特許の申請は、単一効特許の登録がされるまで取り下げることができます。尚、従来の欧州特許制度(EPC)もそのまま併存しますので、許可通知[EPC Rule 71(3)]後、従来の欧州特許を選択して各移行国への有効化手続きを行うことも選択できます。

 

d.経過措置

① 単一効特許の事前申請
単一効特許の申請は、UPCA発効前であっても、ドイツによる批准が完了した時点で許可通知[EPC Rule 71(3)]が発行されている出願について単一効特許の事前申請することができます。

② 特許付与決定通知の発行延期
登録日がUPCA発効前になりそうな出願については、「特許付与の決定の発行延期申請」をすることにより、特許付与の決定日を延期させることができます。これにより、特許公報の公開(登録日)を遅らせ、単一効特許の申請を可能にすることができます。尚、延期申請は、ドイツによる批准日に許可通知[EPC Rule 71(3)]が既に発行されており、且つ、許可通知にまだ未回答であることが条件です。

 

e.費用

単一効特許の申請の庁費用は無料です。しかし、移行期間1(発効から6~12年)においては、クレームおよび明細書を含む全文の翻訳文が求められます。EPOへの手続き言語が英語である場合には、英語以外の1つのEU公式言語(独語、仏語、スペイン語等)への翻訳が必要となります。EPOへの手続き言語が独語または仏語である場合には、英語への翻訳が必要となります。この全文翻訳には法的効力はないものの、機械翻訳は禁止されています。
単一効特許の維持費用は、現在のドイツ、フランス、イタリア、オランダの維持年金の合計額に相当します。3,4か国以上の場合には、従来の欧州特許よりも単一効特許の方が費用的には有利と言われています。

 

f.単一効特許のメリット・デメリット

〈メリット〉

  • ・権利を取得したい国が多い場合でも、EPOへ単一効特許の申請を行うだけで全批准国の特許権を一括で得ることができる(各国への特許有効化の手続きが不要となる)。
    ・権利を取得したい国が多い場合に、特許権の維持費用を削減できる。
    ・侵害訴訟を提起する場合に、各国で提起する必要がなく、統一特許裁判所へ提起すれば足りる。
    ・移転登録、ライセンス登録等の手続や管理が簡便になる。

 

〈デメリット〉

  • ・単一効特許の特許権が取り消されると、全批准国において特許権が無くなる(セントラルアタック)。
    ・権利を取得したい国が少ない場合に、従来の欧州特許と比べて、特許の維持費用が高くなる。
    ・一部の批准国のみに対して権利を取り下げることができない。
    ・移行期間1(発効から6~12年)においては、クレームおよび明細書を含む全文の英語および他の1つのEU公式言語への翻訳(英語+1言語)が必要になる。

2.統一特許裁判所について

a.統一特許裁判所は、単一効特許および従来の欧州特許に関する取消手続および侵害訴訟を管轄する裁判所です。統一特許裁判所は、従来の欧州特許(登録済みの既存の欧州特許を含む)についても管轄することに注意してください。移行期間2(7~14年間)において、従来の欧州特許(登録済みの既存の欧州特許を含む)は、特許権の有効な各移行国の裁判所と統一特許裁判所との両方が管轄可能となり、いずれにも訴訟を提起することができます。一方、当該移行期間2の終了後は、単一効特許および従来の欧州特許は、統一特許裁判所のみの管轄となります。単一効特許だけでなく、従来の欧州特許の訴訟に関して統一特許裁判所が下した判決は、EPCの全移行国に対して効力を有します。例えば、統一特許裁判所で従来の欧州特許が取り消されると、EPCの全移行国において特許権が無くなります(セントラルアタック)。すでに登録済みの既存の欧州特許についても、移行期間2(7~14年間)においては、各移行国の裁判所と統一特許裁判所が管轄可能となりますので、上記セントラルアタックによって一括で取り消される可能性があります。

b.統一特許裁判所は、中央部と地方・地域部とから構成され、中央部はパリ、ミュンヘン、(3箇所目は未定)の3箇所です。中央部は、単一効特許および従来の欧州特許の取消訴訟を主に取り扱い、地方・地域部は侵害訴訟を主に取り扱います。

3.オプトアウトについて

a.オプトアウトは、移行期間2(UPCA発効から7~14年間)において、従来の欧州特許(登録済みの既存の欧州特許を含む)に関して、統一特許裁判所の管轄を除外する手続きです。オプトアウトすることによって、統一特許裁判所が管轄から外れるので、上記セントラルアタックが回避されます。オプトアウトした欧州特許については、各移行国における裁判所で訴訟を提起することになります。尚、単一効特許については、オプトアウトすることはできません。

b.オプトアウトの条件は、

 (i)従来の欧州特許制度(EPC)で登録されること、
 (ii)移行期間2(UPCA発効から7~14年間)内であること、
 (iii)統一特許裁判所に訴訟が提起されていないこと、

です。

c.オプトアウトの申請手続きは、欧州特許弁理士が行うことができます。また、委任状があれば、誰でも申請することができます。また、オプトアウトの申請は、欧州特許の対象案件毎に行う必要があります。

d.オプトアウトするためには、特許権者の氏名、住所、メールアドレス、欧州特許の公開番号、各移行国の情報が必要となります。また、オプトアウトするためには、各移行国の情報が必要になりますので、各移行国の年金管理を行っている年金管理会社、特許事務所等へオプトアウトの依頼をすることをお勧めします。

e.オプトアウトは、UPCA発効の3ヶ月前から申請可能となります(サンライズ期間)。サンライズ期間の経過後であっても、上記(ii)移行期間2内であれば、オプトアウトの申請は可能です。ただし、サンライズ期間経過後、UPCAが発効すると、統一特許裁判所に訴訟を提起することが可能になりますので、対象案件毎にオプトアウトの申請を予め決めている場合は、オプトアウトの申請は、サンライズ期間内に行うことをお勧めします。オプトアウトの効果は、移行期間2の経過後であっても持続します。

f.オプトアウト後に、統一特許裁判所の管轄に戻すことが可能です(オプトイン)。ただし、オプトインした後、再度、オプトアウトすることはできません。オプトインは、移行期間2の後であっても可能です。

g.オプトアウトの庁費用は無料です。年金管理会社または現地事務所等の費用は、10~200ユーロ/件と言われています。弊所で管理している案件について、オプトアウトのご依頼を頂いた場合の弊所費用は検討中です。

h.オプトアウトは、従来の欧州特許で得られた各移行国の特許権がセントラルアタックによって一括で取り消されるリスクを回避できる手段です。また、オプトアウト後であっても、オプトインすることで統一特許裁判所の管轄に戻ることもできるので、各特許権者の積極的な活用が予想されます。

 

上記サンライズ期間にオプトアウトを確実に行うために、オプトアウトご希望の場合には、対象案件を特定のうえ、その対象案件を管理している年金管理会社、特許事務所等へご連絡ください。

パートナー・弁理士 赤岡 明

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