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インドネシア 特許の強制的実施権について

  1. はじめに

     2016年8月26日付で改正されたインドネシア特許法では、特許権者はインドネシア国において特許を受けた物を製造し又は方法を使用する義務を負う。またこの物の製造し又は方法を使用することは、技術移転、投資の誘因及び/又は雇用の機会を支援するものでなくてはならない(第20条)とされています。
     また発明が特許付与から36月実施されない場合(例えば特許権者が特許を受けた物の製造又は方法を使用しない場合)、第三者が強制的実施権の申請を行うことが可能となる(第82条)。あるいは検察官の発議により特許無効とされる場合がある。
     第三者が強制的実施権の申請を行った場合、大臣(Ministry of Law)は、案件毎にこの強制的実施権の申請の適否を判断しますが、検察官の発議による特許無効は現実的には可能性は低いと思われます。
     なお、上述した不実施の36月は、特許権者が特許実施延期申請を提出することにより最大2年間延長することができます。
     具体的には、
    1. 2016年8月26日以後に付与された特許については、特許付与の日から3年以内に特許実施延期申請を提出する必要がある。
    2. また2016年8月26日より前に付与された特許については、2019年8月 26日までに提出しなければならない。

  2. 第三者の強制的実施権の申請の手続き

    1. 手続きの概略
      発明が特許付与から36月実施されない場合であって、第三者が強制実施許諾の申請を行ったとき、大臣(Ministry of Law)は、案件毎にこの強制実施許諾の申請の適否を判断します。
    2. 強制的実施権の申請手続き
      1. 第三者が特許発明に対して強制的実施権の申請を行う場合、
        1. まず第三者は当該特許発明を十分に実施する能力を有し、かつ直ちに発明を実施することができる旨の証拠を提出する必要があります。
        2. また、過去12か月以内に、出願人はライセンス契約を結ぶために特許権者にアプローチする努力をしていたが、特許権者がこれに応じなかったことを必要とします。
        3. さらに、この特許がインドネシアで経済的に機能し、インドネシア国民に貢献できるものと大臣が確信していることを必要とします。
      2. 強制的実施権の申請の審査は、専門家グループにより行われ、この専門家グループは特許権者を召喚して意見を述べさせます。
        この場合、専門家グループからの通知を受けて30日以内に特許権者は意見を述べる必要があります。
        もし特許権者がこの通知を無視した場合、特許権者は強制的実施権を容認したと見做されます。
        なお、特許権者の反論の一つとしては、特許発明を実施している旨の証明を行うことが挙げられます。従って、この状況のもとでは、特許権者は発明が実施されている証拠を提出しなければなりません。
        但し、「特許発明は将来実施される」と単に約束しただけの反論では、発明を実施しない期間が36月を経過した段階で強制的実施権は認められ得ることになります。このような状況の場合は、36月の期間が経過する前に特許権実施の延長申請を出しておくことが好ましいと思われます。
      3. 特許法第90条によれば、もし専門家グループの意見および特許権者の陳述に基づいて当該特許の商業的実施を開始するため、36月以上要すると判断した場合、大臣は強制的実施権の設定を留保し、あるいは拒絶することができます。
        この場合、特許権者は36月の期間は当該発明の商業的な実施のためには十分な長さではない、旨の証拠を提出しなければなりません。
      4. ところで、特許権者が提出すべき、「発明の実施されている」旨の証拠としては、特許された製品がインドネシア国内で製造された証拠、あるいは特許方法がインドネシア国内で使用された証拠が挙げられます。例えば特許製品を製造し、あるいは特許方法を使用するインドネシア国内の工場の存在を示す証拠を提出すれば、上記証拠として認められます。
        特許法第20条によれば、このような証拠は特許製品を製造し、あるいは特許方法を使用する方法に関するものでなければならないとされています。
        すなわち、特許製品の販売あるいは輸入の存在を示す証拠では、強制的実施権を排除する証拠としては受け入れられないことになります。この場合、特許法第20条(2)「特許製品の製造あるいは特許方法の使用は、インドネシア国内における技術移転、投資、雇用に寄与するものでなければならない」に注目する必要があります。
      5. なお、将来の第三者からの強制実施権の申請に備えて、特許権者は発明を実施している旨の証拠を保存しておくべきであり、この保存された証拠は、第三者から強制的実施権の申請が出された場合に使用することができます。
        また、現地代理人によると、強制実施権が付与される前に、上記の a 〜 c のように、強制実施権の申請者が満たされなければならない非常に厳しい要件があり、さらに、インドネシア特許庁には、発明が実施されたかどうかを監視する手段はありません。従って、インドネシア特許庁は、第三者が強制実施権の請求を提出した場合にのみ、特許が機能していないかどうか知ることになります。

  3. 強制的実施権のその他の留意事項

    1. 今回の強制的実施権の対象となる特許
       今回の強制的実施権の対象特許は、すべての特許を含み、例外となる特許はない。
      従って今回の強制的実施権の対象が医薬特許に限られることはない、とされております。
    2. 強制的実施権の申請は、複数回申請可能
       インドネシア特許庁によると、特許期間内のどの時点でも36ヶ月間実施していない場合、第三者は強制実施権を申請することができます。
       なお、特許付与後しばらくは実施していたが、何らかの理由でその後3年(36ヶ月)実施されない場合も、強制的実施権の申請は可能です。
    3. 強制実施権の申請が認められた場合の実施許諾料
       実施許諾料は、特許権者との間の話し合いで決まります。
       また、強制実施権申請を認めるべきか否か判定する専門家が特許権者、実施権者、その他の関係者と話し合った後に実施許諾料を提案することができます。

  4. 特許実施延期申請

    1. 特許実施延期申請が認められるための理由
      1. 特許権者が、複数の国へ輸出する目的で、原材料の供給者に繋がる生産拠点からなる世界的な供給チェーンをもつこと。
      2. インドネシア国内に生産原料がないか、またはいくつかの生産原料を輸入しなくてはならないこと。
      3. 製造方法が、インドネシア国に存在しない特殊技術を必要とすること。
      4. 製造方法がインドネシア国内では限定された特定の専門的技術をもつ人材が必要となること。
      5. 製造コストの経済規模が需要に対応しないこと。
      6. 生産能力が十分でないこと。
      7. 製品又は方法が高度に複雑で、かつ高度な型、精密性をもつこと。
      8. トレードシークレットに関する理由をもつこと。
      9. 特許製品が特許権者又は実施権者の一方により、販売、貸し渡し、輸送する目的で製造され、販売され、輸入され、輸送され供給されていたこと。
      10. 他の理由
    2. 特許実施延期申請をする場合の必要書類
      特許実施延期申請時に必要な書類は以下の通りです。
      1. 特許実施延期申請の理由を記載した特許実施延期申請書(原本)
      2. 現地代理人への委任状(原本)
      3. 最新の年金納付レシート(コピー)
      4. 特許実施延期申請の理由に対応する情報あるいは証拠
    3. 特許実施延期申請書の記載事項
      上記4.I 中のリストに示された理由を述べるとともに、各理由に対応する情報あるいは証拠を示す必要があります。
文責: 
弁理士永井 浩之
弁理士赤岡 明